火星ミッション模擬実験、参加者に聞く
米国時間10月15日、男性3名と女性3名のチームがハワイ、マウナロア火山の北面に建てられたドーム型施設に足を踏み入れる。広さ約93平方メートルの同施設内で、彼らは外の世界と隔絶された8カ月間を過ごす。これはNASAの支援により、ハワイ大学マノア校が実施する宇宙探査模擬実験プロジェクト「HI-SEAS」(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation)の一環で、火星の宇宙ステーションでの生活を模した実験だ。
NASAの資金提供による今回の実験は、長期的に他と隔絶した状態に置かれるミッションにおける人間の行動を調べるもので、予定されている全4回中の3回目となる。8カ月という期間は、NASAによる火星探査の模擬実験としては過去最長だ。
同ミッションのコマンダーを務めるカナダ出身のマーサ・リニオ(Martha Lenio)氏(34歳)は、火星探査の模擬実験を率いる初の女性となる。NASAのミッションを率いる女性としても史上3人目だ。
ナショナル ジオグラフィックでは、ドーム実験に入る準備中のリニオ氏に話を聞いた。
◆今回のミッションの目的は?
NASAの最大の目的は心理学研究で、チームの結束やクルーの精神状態、また8カ月という長期間、半ば孤立状態に置かれるわれわれが、どのように力を合わせてそれを乗り切るかといったことを調査します。
◆ドームの居住区はどうなっていますか?
居住区は直径約11メートルで、2つの階に分かれています。1階にはキッチン、ダイニングエリア、作業エリア、バスルーム、実験スペースがあります。上の階には各自のベッドルームがありますが、狭くてクローゼットに毛が生えたようなものです。また上にもバスルームがあります。窓と呼べるものはドームに1つだけで、運動用にトレッドミルとステーショナリーバイクがあります。ここの広さは、実際の火星ステーションで与えられるスペースとほぼ同じです。
◆外の世界とどの程度通信できますか?
外に電話をかけることはできません。メールのみです。「Skype」も不可です。メッセージの送受信には20分の遅延が生じますが、これは地球と火星の間でメッセージをやり取りするのに要する時間に合わせたものです。
◆持ち込まないといけない必需品は?
1日8リットルの水が各自に支給されます。この1日8リットルで飲み水、炊事、掃除、洗濯、シャワーのすべてをまかないます。これだとシャワー時間は1週間に8分の計算になります。トイレは節水のためバイオトイレになっています。
食品は火星ミッションと同じく2~3年常温保存が可能なものを持ち込みます。フリーズドライの果物や野菜、肉などです。またコーネル大学による食物実験が行われます。長期の宇宙ミッションでは、食べ物に飽きてしまい、何を食べても同じ味に感じるという現象がみられるため、どんな食品が飽きずに食べられるのかを調べる実験です。そのため非常に豊富な種類のスパイスが用意されています。自分たちでヨーグルトやパンを作ることもできます。
◆このミッションで最も困難なことは?
この種のミッションに参加する人は、主に孤立した環境に置かれることから、うつ状態に陥りやすくなります。遅延があるため、親しい人たちとコミュニケーションをとるのは困難です。ミッションの支援チームに対するフラストレーションもたまります。性格の異なる人たちと狭い空間で共に生活するのも大変です。こうしたことすべてが、参加者の徒労感や抑うつ感に影響を及ぼす可能性があります。
◆現時点で人類が火星に行くことは可能ですか?
可能です。火星ミッションの実現は2030年(の予想)となっているため、既にわれわれは火星ミッションの最初期段階に入っています。目下その準備が進められています。
◆今週、マサチューセッツ工科大学(MIT)が、現行技術では人類が火星に定住することは不可能だとする研究結果を発表しました。これについてどう思いますか?
この研究が採り上げている「マーズワン(Mars One)」ミッションは、人類を火星に永住させることを目的とした片道のミッションです。民間企業が計画しているもので、研究で指摘されているような種々の問題は起こりえます。
しかし、NASAなど世界の宇宙機関が計画しているのは、3年をかけて火星まで往復するミッションです。したがって、完全な持続可能性を目指す必要はまだなく、物資を再補給したり、物資だけを先に送っておくことも可能です。
つまり、現行の技術では、火星に永続的に滞在することはできませんが、一定の、あらかじめ決まった期間だけ火星に滞在することは可能なのです。
映画化されそう。
火星ミッション模擬実験、参加者に聞く