三陽商会はなぜバーバリーを失ったのか
きつそうだな・・・
「バーバリーのライセンス契約について1つの結果が出たので、説明させていただきます」――。5月19日、東京・青山の自社ビルで開いた記者会見の場で、三陽商会 <8011> の杉浦昌彦社長は、固く閉ざしていた口をついに開いた。 三陽商会が企画・販売をする「バーバリーロンドン」は、2015年春夏シーズンを最後に、事業を終了する。また、派生ブランドの「バーバリー・ブルーレーベル」、「バーバリー・ブラックレーベル」についても、2015年秋冬シーズン以降、バーバリーのブランド名を外した「ブラックレーベル」「ブルーレーベル」として、英国のバーバリー本社と3年の契約でライセンス契約を結ぶ運びとなった。
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事実上、「バーバリー」を冠するブランドは2015年7月以降、英バーバリー本社が日本法人を通じて直営展開するのみとなる。
■ 英本社がこだわった路線
戦後、レインコートの製造・販売から名門アパレルメーカーとして成長を遂げた三陽商会にとって、バーバリーはただの百貨店ブランドではない。1965年の輸入販売開始以来、約半世紀にわたって密接な関係を維持してきた。日本におけるバーバリーの業績は非開示だが、直近の三陽商会の売上高1063億円の過半、利益の大半を稼ぎ出すともささやかれる(2013年12月期ベース)。
バーバリーは英国ではラグジュアリーブランドとして展開しているが、日本では三陽商会の企画・製造の下、1990年代に20~30代向けのディフュージョンライン(普及版ブランド)としてブルーレーベルとブラックレーベルを立ち上げ、急拡大を遂げた。
「英国の一高級ブランドが日本人の間でこれだけ普及したのは、三陽商会の手腕」(大手アパレル役員)と、同業他社からの評価も高い。そんな三陽商会とのライセンス契約の関係を、なぜ英バーバリー本社は反故にしようというのか。
「ラグジュアリー路線というグローバル(英バーバリー本社)の戦略があった」(三陽商会の小山文敬副社長)
欧米のラグジュアリーブランドの主要市場が日本から中国をはじめとした新興国に軸足が移る中、英バーバリー前CEOのアンジェラ・アーレンツ氏はバーバリーの高級化路線を進め、各国のライセンス契約には否定的な考えを持っていた。「特に、半値近い価格帯で展開するブルー、ブラックの両レーベルにアンジェラ女史は否定的だった」(アンジェラ氏を知る外資系高級ブランド幹部)という。
英バーバリーの2013年のアニュアルレポートによれば、全世界のライセンス契約収入の1億0900万ポンド(約185億円)のうち、約60%以上を日本のライセンス販売が占める。ただし、小売りや卸を含む全体の売上高20億ポンド(約3400億円)からみれば、日本のライセンス収入はわずか3%強にすぎない。2010年にスペインにおけるバーバリーのライセンス契約を直営展開に切り替え、成功を収めたことも引き金になったといわれる。
■ 百貨店の売り場はどうなる
三陽商会は、契約が終了する2015年12月期の業績について、バーバリーロンドンの撤退やブルーレーベル、ブラックレーベルの減収の影響を織り込み、売上高が前期比10.3%減の960億円、本業の儲けを示す営業利益が同97.2%減の2億円という計画を発表している。また、年間をとおしてバーバリーの売上高がなくなる2016年12月期には、売上高が850億円(同11.5%減)、営業損益に至っては20億円の赤字に転落する見込みだ。
百貨店を中心としたバーバリー売り場の人員や、子会社が抱える青森や福島の縫製工場などバーバリー向けの生産ラインについては、別のブランドに振り分けて維持する方針を表明しているものの、厳しい経営環境が続く。
バーバリー喪失の影響は三陽商会のみにとどまらない。主販路である百貨店にも影響が及ぶのは必至だ。三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長は、3月の個別インタビューの際に、「特にバーバリーの人気が高い地方店への打撃は大きい。以前から小売りの立場として、(英バーバリー前CEOの)アンジェラ・アーレンツに『なくなったら困る』と何度も伝えてきた」と明かしていた。